『新聞社 破綻したビジネスモデル』

久々に仕事で東京まで。
平日の9時前後のビジネス時間帯って、3年ほど前なら空席が目立つほどだったのに、ほぼ満席だったのにビックリ。
さらに名古屋で降りる人の数が多くてさらにビックリ。
何かビジネスモデルが変わりつつあるんでしょうね。


で、新幹線で移動するときには本を読むことにしてるので、この本を読んでました。

  • 『新聞社 破綻したビジネスモデル』(著:河内孝 発行:新潮新書

行き詰まりつつある新聞販売というビジネスモデルの問題点と改善点を元毎日新聞取締役・河内孝氏が綴った一冊。
この本を読んでいてビックリしたのが、新聞社の取締役である河内氏も押し紙の実数をまったく知らないこと。


販売所が新聞を顧客に販売するときは顧客台帳というものに記載し、その顧客台帳に基づいて領収書が発券されます。
その領収書発券数を確認すれば簡単に実売部数はわかるのですが、そういう調査をどの新聞社もおこなっていないからわからない、と。
これは超ビックリ!!
取締役も実数を知らないなんて、これはタブーどころかUMAみたいなもんですよ。
ただ、この押し紙というUMAは朝八時頃販売所に見に行けば簡単に存在が確認できるんですけど(笑)。


河内氏はABC協会の部数調査報告や外部の調査団体の数字から、おそらく押し紙は10%程度ではないかと本書で書いてます。
そして「10%の押し紙」を「ゆゆしき事態・深刻な問題」と書いてます。
10%で、ですよ。
河内氏は「押し紙の実部数を知らない」と書いてるので書きますが、毎日でおそらく3割、朝日・讀賣はともに4割にちかいところでしょう。
これは販売所に送ってくる新聞の実数がほとんどの店でそうですから、当たらずとも遠からずだと思います。


1割で「深刻な問題」なのです。
それが3割4割に達しているのなら…もうこれは致命傷でしょう。
そんな新聞が生き残れるのでしょうか?
河内氏はその生き残り策を書いてるのですが、これが大変面白いのです。


ちょっと話題を変えますが、先日この日記で「珊瑚問題が起きるまで、朝日の押し紙はほとんどないか、1割か2割ほどだった」と書いたところ、いくつかのニュースサイトで「ウソだ」「あり得ない」というコメント付きで紹介されていました。


あの日記は自身の新聞配達の経験を元にして書いてます。
さらに『新聞社』の中でも書いてありますが、珊瑚問題以前、70〜80年代は朝日が都市部を中心とした核家族、ニューファミリーのステータスシンボルとして売れに売れていた時期があったのです。
押し紙もあるにはあったのですが、販売促進のカンフル剤として使われていて、販売所は押し紙分から拡張成功すればその分が現金収入(販売奨励金みたいなもの)、新聞本社は部数増に繋がるというwin-win関係にあり、今のような新聞本社からの押し付けという形ではなかったとか。
とにかくこの時期は新聞が売れに売れて自社ビルを建てる販売店オーナーも多くいた、と河内氏は書きつづっています。


自分はこうして珊瑚問題以前の朝日の押し紙について自分の経験や文献から書くことが出来ます。
それに対し「ウソだ」「あり得ない」と書いたニュースサイトはその一言だけをコメントとしてつけるだけで、ウソならウソの、あり得ないならあり得ないの取材も検証もありません。
検索結果の提示すらありません。
だからそれが本当にウソなのか、あり得ないのかは誰にもわからないし、信用も出来ないですよね。


経験や文献を元にして書いたものと、一言で切り捨てたコメントと、どちらの方がニュースとして伝わるでしょうか。


「取材と検証こそが新聞の生き残る道」というのにネットのヘビーユーザーである自分と、新聞を作っていた河内氏の考えが重なるのが面白いと自分は思います。
ネットのヘビーユーザーが考えるネットのダメな点と、新聞を作っている人間が考える新聞のダメな点はなぜ重なるのでしょう?
この件について項をあらためて書きたいと思います。


<PS>
河内孝氏って実際に販売改革をやろうとして吊し上げを食らったみたいですね。

http://blog.livedoor.jp/saihan/archives/50613113.html
自分はこの本で書かれてる河内氏の案のいくつかは荒唐無稽だと思うけれど、実際に運用出来ればネットと新聞をドラスティックに変えることが出来たと思うんですけれども。
自分はオーマイがニュースに「偏った政治的信条」を盛り込まないことを確約できるのであれば、河内氏を引っ張ってきた方がいいと思いますがいかがでしょう?