『津山三十人殺し』

新幹線の中で読んでいた一冊。

  • 津山三十人殺し−日本犯罪史上空前の惨劇』(著:筑波昭、発行:新潮社)

津山三十人殺し―日本犯罪史上空前の惨劇 (新潮文庫)


昭和十三年に岡山県津山地方で起こった、たった一晩、二時間弱の間に三十人が惨殺された驚愕の事件。
この事件を当時の警察調書や新聞記事、民俗文献から再構成してみようとする一冊。


この本を読むと、戦前も心神衰耗による犯罪には責任能力が無いとして、現在と同じく甘い司法判断が下されていたこと。
被害者の人権よりも、加害者の人権の方が同情的に重く見られていたこと。
マスコミが無責任にスキャンダリズムで記事を書いていたことなんかがわかります。
なんだ、今とあんまり変わらなかったのね。


この事件を起こした犯人は犯行直後に自殺してしまっているので、なぜこんな事件を起こしたのか、真の理由はわかりません。
彼の心の闇は、彼の死によって本当の闇になってしまったわけです。
だから周辺人物の証言や犯人が過去に残していた書き物や発言を集め、彼がこんな事件を起こした理由を推し量るしかありません。
そうやって集められた資料を読むと、彼が先天的にも後天的にも特殊な人間ではなく、普通の若者であったことがわかってきます。
性の好奇心に旺盛で、有り余る自己顕示欲を持っている、今の普通の若者と変わりない。
それじゃあ事件を起こした彼と、普通の人間との境界線はどこだったのだろう? ということになるのですが。
作者は犯人の凶行の動機を「結核による絶望と部落民への憎悪のほかに、強烈な自己顕示欲があずかっていたにちがいない」と書いてるのですが、果たしてそれだけだろうか? と思ったりしてしまいます。


しかし、この犯人のように被害妄想と自己顕示に凝り固まって変な行動を起こす人も実際にいますしね。
「俺が有名になれない、ちやほやされない、社会に受け入れられないのは誰かが俺の悪口を言ってるからだ。言いふらしてるからだ。だからそいつらを叩かねばならない!! 抹殺せねばならない!!」って妄念に取り憑かれている人が。
だから犯行の動機が自己顕示欲であった、ってのはあながち間違いじゃないのかもしれないなぁと思ったり。


津山三十人殺し事件についてはこちらをどうぞ。

  • 津山30人殺し事件(無限回廊 endless loop)

http://www.alpha-net.ne.jp/users2/knight9/tuyama.htm