『世界の食文化 イギリス』

今日は読んだ本の話とか。

  • 『世界の食文化 イギリス』(著:川北稔 発行:農文協

世界の食文化〈17〉イギリス

世界の食文化〈17〉イギリス

普段4コマでセイバーの食事をネタにしてますが、長年に渡って疑問がありまして。
それはイギリスの食事のこと。
イギリス料理で検索してみたり、イギリス滞在のブログを読んでみたりもしましたがいまいちイギリスの食のことがわからない。
本当にイギリスの食事はまずいのかもわからない。
そうであればイギリスに行って実際に食べてみるのがいいのでしょうけどそんなお金も時間もありません。
ということで本屋をうろついてこの本を購入してみました。


イギリスの食文化をシェイクスピアの時代ぐらいから、文献や残されてる資料から読み解いている本なので、セイバーの時代あたりの食文化の歴史は載っていません。
そのため食の歴史を考えるには浅いとAmazonでは1件酷評されてます。
それでも今のイギリスの食事を読み解くにはとても参考になります。


イギリスの食事についてこの本に書かれていることをまとめると次のようなものが挙げられるかな?

・ローストビーフなど、一部の料理を除いて系統立ててイギリス料理と定義出来るものは無い、あるいは絶滅した。
・フランス大嫌いでフランスのマネをするのがイヤだったので華美なフランス料理の逆、質素な料理を良しとした。食べ方やマナーも反フランス式が主流だった。
・お茶と砂糖はカフェインでアタマをはっきりさせ、糖分で栄養を摂るためだった。
・ジャガイモは貧民が食べるものとして忌避されていた。
・一般家庭でもサーヴァントと呼ばれる家事使用人が料理を作っていたため「家庭の味」とか「おふくろの味」とかが無い。家事使用人向けにマニュアル化された食事が多かった。
産業革命で農村人口が減り、食は作るものから買うものになった。そのため自給自足の「作るもの」時代の料理が失われた。
・ジェントルマン主義や宗教が快楽の追求を悪としていて、美味の追求も悪とされていた。質素で簡素な料理が良しとされてきた。
・主食と副食の区分が無いので肉を食べられる金銭的余裕のある人間は肉ばっかり食べていて、余裕の無い人間はジャガイモとか安い食材を食べていた。
・とにかく肉、それも牛肉を食ってた。あとベーコン。
・砂糖の消費が半端なかったが、それは甘みを美味と感じてたからではなく労働者が栄養を摂るためだった。
産業革命が始まると食品偽装のオンパレードになり、牛乳は危険な飲み物になった。
産業革命の頃の食事は労働のためのエネルギー摂取の「手段」だった。
・野菜サラダなど「野菜」を積極的に摂取しようという考えはつい最近までなかった。

などなど、この本を読むと「へぇー、イギリスってそうだったんだ」と驚くことしきりです。
わからない料理名は検索すれば出てくるので、自分はiPadを横において調べながら読んでましたが本当に「へぇー」と驚くことばかりでした。


そして多分一番皆さんが知りたいイギリスの料理の不味さについて川北氏はこう書いてます。

囲い込みと産業革命、都市化で、イギリスの伝統的な農村生活の多くの側面が失われたため、イギリスの庶民は伝統的な料理の大半を失った。
また、しかも、上流階級はフランス料理への抵抗感をなくしたため、フランス人コックを雇い、イギリスの伝統食は、その点でも失われた。
コックの質も、富裕な中産階級がコックを雇うようになる―そのことじたいが、典型的な「スノッブ(イギリス人の上流気取り)」の行動であった―と、優秀なコックは得られなくなり、料理にさして知識もない人が多くなった。
サーヴァントが料理をつくる家庭が多くなったことが、かえってその質を下げたものと思われる。

「イギリス料理はなぜまずくなったのか」という章からの一部引用で、これ以外にも歴史とか国民性とか政治とか宗教とか色々関係しているということが書かれているので、なぜイギリスの食事は不味くなったのかを知りたいかたは是非ともこの本を読んでいただければと思います。


料理に美味さを求めるようになった最近のイギリスがこういうことをおこなってます。

  • A Taste of Britain ためしてみて、美味しいイギリス (駐日英国大使館)

http://taste-of-britain.com/
イギリスの食事、逆に考えれば今や世界中から色々な料理が集まってきていて、それらが混ざり合いながら今後のイギリスの食の文化を創っていくわけです。
まずい料理は過去のものとして、今後「発展していく料理」なんですよ。
それらがまずい料理のはずがない、多分、きっと。
そのうち「イギリスの料理って、なんて美味しいんだ!!」と言われる日が来るんじゃないかなぁ。
混ざり合ってとんでもないことになるかもしれませんが。
この本を読んでますますイギリスに行ってみたくなりました。


<PS>
よくいわれている「外国では主食と副食の区別がない」っていう意味がこの本を読んでよくわかりました。
逆に言えば主食と副食の区別があったから日本の料理ってこれだけ発展したんじゃないのかなぁと。
今度は日本の料理の歴史も勉強したいです。