「匿名=悪」なのか?

最近、週刊アスキー連載の『仮想報道』ではネットでの匿名について色々記事が書かれていて興味深く読んでいます。
で、ネットの匿名について考えているときに目にしたのが今週の週刊新潮
『人間自身』というエッセイで池田晶子氏が匿名でのネット活動について論じているのですが、これが何というかねぇ。
「偽名により隠れる必要があるのは、それが悪いことだからであって」とか「自分は守りつつ他人は攻撃したいという、この小心にして卑怯な心性がネットの悪意である」とか「実名で書くと攻撃が怖いという。それならそんなことはやめればいい」とか「実名以外は受け付けできないというサイトはできないのだろうか」とか「愚劣なネット社会」とか。
「匿名=悪」という一方的な図式で書いてるのが何ともなぁ。
名前を名乗っている作家だけこそが表現活動出来るのだ、と言わんばかりの文章がなかなか何とも。


これについては「作家の歯ぎしり」だと自分は思っています。
今までは作品を発表し、人に意見を伝え、知らしめ、広めるものは紙媒体がメインでした。
そこでは「職業作家」だけが作品や意見を発表でき、紙媒体に掲載されているというのが権威であり信用でした。
「この紙媒体に書かれているんだから間違いない」、みたいなね。


でもネットが登場して誰でも作品が発表でき、意見を広く伝えられるようになりました。
そうなると紙媒体だけが権威であり、信用であるという図式は揺らいできてます。
さらに今まで権威であり、信用の場であった紙媒体もネットで容赦のない批判・批評にさらされることになりました。


そういう状況は、紙媒体という権威や信用で保護されていた作家さんにとってガマンできないものでしょう。
「このメジャーな紙媒体で文章を書いてる私は偉いのよ!! 素人が批判・批評するんじゃないわよ!! 黙って私の文章を読んでうんうん頷いていればいいのよ!!」ってのが通用しないんですから。


批判や批評に実名・匿名の差ってあるんでしょうか。
実名でも読むに値しないものもあれば、匿名でも珠玉の批評っていうのもあります。
その作家さんが実名の意見なら受け付けるけれど、匿名の意見は受け付けないっていうのは何故なんでしょうね。
もし自分の発表しているものに自信があるのなら、そこへの批判・批評・感想には実名・匿名の差なんてないと思うのですが。
作家さんが「実名なら受け付ける」とか「匿名は卑怯」とか言うのなら、それこそ自分の発表しているものに自信がないことのあらわれではないでしょうか。


で、『仮想報道』の歌田氏やこの池内氏も書いてますが、なぜ日本のネットは匿名が多いのでしょう。
これは池内氏も書いている通り、実名を出してネットで物事を発表すると攻撃される可能性があるからです。
ただし、その攻撃はネットで物事を発表した個人に向かうとはかぎりません。
その個人が属する集団や団体や、家族や周囲の人にも向かいます。
人間は自分自身が攻められるより、周りの人が攻められる方が守りにくいしダメージも高いのです。
これを逆手に取ってるのが暴力団や人権団体や圧力団体のやり方。
「カネ払われへんのやったら職場まで行ったろかっ!?」とか「あなたがこんな発言をしたなんて両親が知ったらどう思うでしょうね!?」とか「不買運動を起こします!!」とかね。
個人への批判が個人へ向かわず、周囲に向かうのが日本の特徴だと自分は思います。


もし個人への批判が周囲に向かわず、個人だけに向けられるのなら、実名で書いてもいいっていう人はかなりいるんじゃないかと自分は思います。
自分への批判が自分だけに向けられるのなら、自分も名前を出してもいいと思ってますし。
だけど日本の現状は暴力団や人権団体や圧力団体を含め、個人への批判のコンセンサスがそうなっていません。
必ず周囲への攻撃に向かいます。
そうであるなら「自分を守るために」だけではなく「周囲の人たちも守るために」匿名で自衛するのは当然じゃないでしょうか。


自分は発言の内容には実名や匿名の差はあまり無いと思ってます。
大切なのは実名であれ匿名であれ「その人に直接言う」ことだと思っています。
「その人に直接言う」という慣習が根付き、「周囲の人を攻撃するのは卑怯で、やってはいけない」というのが日本人のコンセンサスになったら、実名は増えるんじゃないかなぁと思います。


追記

  • 「出て行く」と上申書ヤミ金被害者に書かせる東入間署員

http://www.saitama-np.co.jp/news12/15/24x.html

近所の住民に「立て替えろ」と取り立ての電話などが来るようになり、住民が同署に苦情を寄せた。

これでヤミ金業者を警察が指導するんじゃなく、借り手を指導するところが日本的というか。
攻撃が本人じゃなく周囲に向かうという例ですね。


こういうヤミ金みたいな行動をする人ってブログ界隈にもいますからねぇ。
そういう人がいる限り、匿名での発信は主流であり続けると思います。