考える大人

今日の一冊。


『大人問題』(著:五味太郎、発行:集英社


子どもに接するときの、大人のおかしな態度を色々取り上げた一冊。


よく「健全な子どものために」なんて言葉、目にしたり耳にしたりしますが、健全な子どもってのは一体誰にとっての健全なのでしょう。
子どもにとって?
子どもは「健全な子どもってなんてつまんないんだろう」と言うと思いますよ。
「暗くなる前に帰ってきなさい」という大人の命令に対し、「今日は暗くなる前に家に帰った。言いつけを守るってことはなんて素晴らしいんだろう」なんて言う子どもがいたら、それはそれでユニークですが、「もうちょっと遊んでいたかったけど、叱られるから帰ろう。つまんないなぁ。」って子どもの方が多いんじゃないでしょうか。
それで暗く前に帰ってきたりなんかすると大人は「この子はマジメな子だ」なんて褒めるわけですが、それは子どもが無事に帰ってきたという安堵感じゃなく、自分の命令を守ったことに対する喜びだったりするわけです。
暗くなってきた子どもに対し叱るのは、子どもの身を案じて叱るのではなく自分の命令を守らなかったから叱るんですね。


そう考えると「良い子」「健全な子ども」ってただ単に大人の都合を押しつけてるだけなんじゃないですか? と。
それじゃあなぜ大人の都合を子どもに押しつけるのかというと、大人が自分で考えるってことをやめてしまったからと五味氏は書きます。


なぜ「暗くなる前に帰ってきなさい」と親は子どもに言うのでしょう。
他の親もそう言ってるから? 探しに行くのが面倒くさいから? 危険を教えるのが億劫だから? 晩ごはんの準備が鬱陶しいから?
「どうして暗くなる前に帰らなくちゃいけないの?」と子どもが聞いてきたら何と答えるのでしょう。
ほとんどの親は「とりあえず世の中ではそう決まってるのだから、あなたは私の言うことを聞けばいいのよ」で終わらせるんじゃないでしょうか。
これ、親が考えるってことをやめちゃってますよね。


この本の中で五味氏はこう書いてます。

基本的に子どもに説明できないことは間違いである、という考えがぼくにはあります。

自分もまったく同感です。


「どうしておちんちんやおまんこを絵に描いちゃいけないの?」と子どもに聞かれたら、皆さんどう答えます?


法律で決まってるから? 警察に捕まるから? 昔からそう決まってるから?
なんて答え、自分で考えることをやめちゃってますよね。


裸の男性の絵におちんちんがついてないのは変ですし、女性の絵におまんこがないのはやっぱり変です。
何しろ絵として写実的に正しくない。
いつもはちゃんと絵を描けなんて怒るくせに、人の身体をちゃんと描くと叱られる。これは子どもにとってやっぱり理不尽なことです。
それじゃあどうして描いてはいけないのか?


それを自分なりに考えて子どもに説明できるのが大人なんだと自分は思います。


もし自分がこの質問をされたらどう答えるだろうかと考えると…。


「描いてもいいと思うんだけど、描くと困る人たちがたくさんいるんだよ。
すばらしいおちんちんやおまんこの絵を描くと大人はみんな見たがるんだよね。
そうすると仕事をしない人やさぼる人が多くなるし、絵の所得はきちんと申請してもらえないし、税収が落ちるんだよね。


さらに言うと、人間は若い人がやっぱり好きだから、エッチな絵を見ることで性欲がかき立てられて、結婚してる人は若い人を求めて離婚しちゃうかもしれない。
そうすると子どもを育てるためのインフラにお金がかかって余計な税金を使うし、財産が散逸してしまうとやっぱり税収が落ちちゃう。
一夫一婦制ってのは子どものために余計な税金を使わず、財産を散逸させないことで税収を上げる、国の都合のためにそうなってるだけの制度なんだよ。
離婚しちゃダメってのは、お父さんお母さんや君の都合じゃなく、国の都合なんだね。


あと、若い人がエッチな絵を見るとそればっかり見続けて、勉強がおろそかになるって言う人もいるね。
それは勉強がおろそかになると税金を納める優秀な労働者が育たないってことなんだ。
学校の勉強は、君たちを"文句も言わず税金を納める立派な労働者"にするための勉強なんだよ。
エッチな絵を見ると税金を払う労働者が育たない。そうなると税収がやっぱり落ちるよね。


税収が落ちる、それはやっぱりマズイってことなんだ。


税収が落ちると道路や橋なんかが建てられなくなるし、社会的インフラを維持できなくなるから君も困るよね。
税収が落ちると君も僕もみんな困っちゃうんだ。
だから法律で描いちゃダメって決めて、描かせないようにしてるんだよ。」


この説明を聞いて「じゃあエッチな絵を描いて一兆円ぐらい納税してやるぜ!!」ってな子どもがあらわれてきたら、面白いなぁなんて思います。
大人問題 (講談社文庫)